産後の抜け毛(分娩後脱毛)
多くは自然に回復していく生理的な変化です。
長引くときは、別の原因がないか確かめましょう。
こんにちは。ふくだあやレディースクリニック院長の福田綾です。
産後1か月健診や授乳中の受診で、「シャンプーのときに髪がごっそり抜ける」「産後3か月頃から急に薄くなった気がする」というご相談をよくいただきます。私自身も産後にたくさん髪が抜けた経験があり、排水溝に溜まる毛を見て不安になった記憶があります。
このページでは、産後の抜け毛(分娩後脱毛)について、医学的な経過と対応の考え方、そして「これは産後の変化ではないかもしれない」と考えるべきサインを整理してご説明します。
About
🔵 産後の抜け毛(分娩後脱毛)とは
なぜ起こるのか
髪には「成長期・退行期・休止期」というサイクル(毛周期)があります。妊娠中はホルモンの影響で休止期に入るタイミングが遅れるため、抜ける髪が減り、毛量が増えたように感じられる方が多くいらっしゃいます。
そして出産後、その分の毛髪が一斉に休止期へ移行して抜け落ちるのが、産後の抜け毛です。医学的には分娩後休止期脱毛(postpartum telogen effluvium)と呼ばれます。
病気ではなく、妊娠・出産という大きな身体の変化にともなう生理的な現象と考えられています。髪が細くなったり、毛根が傷んだりして起きているわけではありません。
毛周期の4つの段階
髪の毛は「生える → 成長する → 抜ける → 休む」を繰り返しています。それぞれの段階と期間の目安は次のとおりです。
- ① 成長期(髪が成長する時期・2〜6年):毛母細胞が活発に分裂し、髪が太く長く成長します
- ② 退行期(成長が止まる時期・約2週間):毛母細胞の働きが弱まり、髪の成長が止まります
- ③ 休止期(抜ける準備の時期・約3〜4か月):髪が抜け落ちる準備をして、毛根が浅くなります
- ④ 脱毛・新生期(約3〜4か月):古い髪が抜け落ち、新しい髪が生え始めて成長期に入ります
通常は、一度にすべての髪が同じ時期になることはなく、約85〜90%の髪が成長期にあり、10〜15%が退行期・休止期にあるといわれています。産後の抜け毛は、この本来ばらばらであるはずの周期が、妊娠・出産をきっかけに一時的にそろってしまうために起こります。
Course
🟡 いつから始まって、いつまで続く?
- 始まり:産後2〜4か月頃から目立ってくることが多いとされています
- 期間:おおむね数か月間続きます
- 落ち着くまで:多くは産後1年以内に自然に回復していきます
基本的には自然に改善していく経過をたどり、時間の経過とともに生え変わっていくとされています。生え際にツンツンとした短い産毛が出てきたら、新しい毛が育ってきているサインのひとつです。
※ 経過には個人差が大きく、上記はあくまで目安です。回復までの期間がこれより長くなる方もいらっしゃいます。
Management
🟣 基本の対応は「経過をみること」
産後の抜け毛そのものに対しては、特別な治療を行わずに経過をみるのが基本です。
産後は睡眠不足や授乳、育児の負担が重なる時期でもあり、「このまま戻らないのでは」と強い不安を抱えてしまう方も少なくありません。まずは原因が生理的なものであることを知っていただくことが、不安をやわらげるうえで大切だと考えています。
お薬による治療について
産後の抜け毛に対して、確立された有効な薬物治療は現時点ではありません。過去にホルモン補充や外用薬などを検討した報告もありますが、いずれも対象人数が少ないなどの限界があり、明確に推奨されるには至っていません。
外用ミノキシジル(市販の発毛剤に含まれる成分)については、産後の抜け毛そのものへの適応は確立されていません。また、妊娠中・授乳中の方は使用できません。授乳を継続中の方は、自己判断で市販の発毛剤を使用せず、必ず医師にご相談ください。
Differential Diagnosis
🟤 別の原因が隠れていないかの確認
抜け毛が長引く場合、範囲が広い場合、円形に抜けている部分がある場合には、産後の生理的な脱毛以外の要因が関わっていないかを確認します。
鑑別すべき背景
- 甲状腺機能の異常(産後甲状腺炎など):産後に一時的に甲状腺の働きが乱れることがあります。だるさ、動悸、体重の変化、気分の落ち込みをともなうことも
- 鉄欠乏性貧血:出産時の出血や授乳により、産後は鉄が不足しやすい時期です
- 栄養の不足
- ビタミンD不足
検討する血液検査
必要に応じて、TSH(甲状腺刺激ホルモン)、フェリチン(貯蔵鉄)、25-OHビタミンDなどの血液検査を検討します。だるさや動悸などの症状をともなう場合は、あわせてご相談ください。
甲状腺については甲状腺疾患のページ、貧血については鉄欠乏性貧血のページもあわせてご覧ください。
When to See a Doctor
⚠️ こんなときは一度ご相談ください
- 抜け毛が1年近く続いている
- 生え際だけでなく、頭頂部を中心に進行している感じがある
- 円形・斑状に抜けている部分がある
- 強い倦怠感、動悸、体重の急な変化、気分の落ち込みをともなう
- 気になって外出がおっくうになるなど、生活に影響が出ている
これらの場合は、慢性の休止期脱毛や女性型脱毛症、円形脱毛症などとの見分けが必要になります。当院では甲状腺機能や貧血などの血液検査を行い、皮膚科での診察が望ましいと判断した場合には皮膚科専門医へのご紹介も行っています。
Self-Care
🔵 日常で心がけたいこと
抜ける本数そのものを止める方法はありませんが、髪が育つ土台を整えるという意味では、栄養バランスのとれた食事・鉄やたんぱく質の不足を避けること・休息をとることが基本になります。
また、強く引っ張るヘアスタイルを続けたり、頭皮を強くこすったりすることは避け、やさしく洗うことをおすすめしています。
「抜けるのが怖くて洗えない」というお声もいただきますが、休止期に入った髪はいずれ抜けるものですので、頭皮を清潔に保つことを優先していただいて差し支えありません。
FAQ
🟡 よくあるご質問
Our Care
🟣 当院でできること
当院では、産後の抜け毛のご相談に対して、経過についてのご説明のほか、甲状腺機能・貧血・ビタミンDなどの血液検査を行っています。必要と判断した場合には、皮膚科専門医へのご紹介もいたします。
産後のホルモンバランスや月経の再開、気分の落ち込みなど、髪以外のお悩みもあわせてご相談いただけます。産後の体調の変化は、ひとつずつ切り分けて考えるより、まとめてご相談いただいたほうが原因にたどりつきやすいことも多いのです。
ご予約・お問い合わせ
WEB・LINE予約は24時間受付中。お待ちの時間を短縮できます。
料金については料金ページをご参照ください。
※ 本ページの内容は、日本産科婦人科学会ガイドライン・最新の医学的エビデンスに基づき、院長・福田綾が監修しています。個々の症状・治療については必ず医師にご相談ください。
参考文献・参考情報:本ページの内容は、以下の学会・公的機関の公開情報を参考に、当院が作成・監修しています。